『ルポ 女性用風俗』菅野久美子 著
ある不倫調査でのこと。
ご主人からのご依頼で「妻が若い男と手をつないで歩いている所を知人が偶然発見して、私に教えてくれたんです」とのことで、調査をしたところ、奥様は確かにジャニーズ顔負けのルックスの20代後半の男性と手つなぎデートをしており、映画を観たり、ショッピングをして楽しんで帰る日もあれば、会ってすぐにラブホテルに直行する日もあった。
直感的に相手男性はプロであることが見てとれたが、調べてみるとホストとは違う『女風(女性用風俗)のセラピスト』だった。
そんな案件もあり、本屋でタイミングよく見つけたのがこの『ルポ 女性用風俗』だ。
女性用風俗がネットの普及や低価格化によって流行の兆しを見せている。ホストクラブに通う風俗嬢やキャバクラ嬢ではないごく普通の女性が利用する背景を探るルポである。
女性用風俗の市場の拡大には、深刻なセックスレスや女性の社会進出、性経験年齢の高齢化、50歳時未婚率の上昇など、様々な社会的な要因が隠れている。
そして、レンタル彼氏やホストの『その先のめくるめくサービスを、誰もが利用でき、安心価格で提供される』というドリームランドのような事業として活況を呈している。
ある女性は30年もの間、夫とのセックスレスに悩んだ末に、また別のある女性は幼少期にいじめを受けたことがきっかけで異性との付き合いに積極的になれず、処女であることのコンプレックスから、勇気を振り絞って女性用風俗の世界に足を踏み入れた。中には親から虐待を受けたことで心を病み、その苦しみから逃れるために女性用風俗でSMに目覚め、奴隷になっているときにだけ解放されるという女性もいる。
女性用風俗に夢中になるその背景には、社会の裏側で進行しているセックスや愛の“貧困”があることも間違いない。
コロナ禍で、離婚の危機を迎えた夫婦がいる。溜まりに溜まった夫婦間のストレスはどこかで吐き出さないと、マグマのように膨れ上がり、DVなど最悪な形で現れることもある。
結婚生活、育児といったしがらみは、そう簡単に放り出すわけにはいかず、人間関係の不安や不条理を抱えたまま生きていかざるを得ない。
しかし、矛盾をひとりで抱えこむ苦しみは耐え難い。その穴を埋める何かが、ひとときでも救いをもたらしてくれる誰かが、必要になる。
心が折れそうな時は寂しさを埋めてほしいし、勇気づけて欲しい。心を許せる誰かと触れ合いたい。そうして、女風を利用するわけだが、結婚している以上、一線を越えたら “不義密通” になる事は否めない。この辺の事情は大変に難しい問題である。
しかし、中には夫公認で女性用風俗を利用するという女性もいる。男性の方が「どうしても、そういう気持ちになれない」ため、外での性欲解消を容認している夫婦である。同世代で夫婦仲も悪くない。「むしろ女風に通ったおかげで夫婦円満となり、家庭生活も幸せになった」そうだ。
これはあくまでもマイノリティリポートだと思うが、今後の発展に期待したい。
また、女風の利用動機として「寂しさ」を口にする女性たちがとても多く、それは日本人が抱える社会的孤立という問題ともつながっている。日本はOECD加盟国のうち、最も孤立度が高い国。新型コロナウィルスの猛威によって、日本の孤立や孤独をめぐってはさらに深刻な状況になり、社会的弱者ほど、捨て置かれているという現実がある。人と人との距離を保つことがよしとされるこのコロナ禍だからこそ、より一層孤立感を深める人たちが日本にはたくさんいる。そして女性用風俗にもその影響が顕著に現れている。
コロナ禍でなかなか人に会えないという孤独やストレスを募らせた女性たちが、女性用風俗に沼っているのだ。ソーシャルディスタンスがいくら叫ばれても、人は誰かと一緒にいたい、つながりたいという潜在的な欲求に抗うことはできない。女性用風俗という業態は、今後も女性のセクシャリティや社会状況によって、変化を遂げてゆくことだろう。
（以上、感想を交えた引用文です。本書には具体的なサービスの仕方が載っているので、興味ある方は購入して読んでください）
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